米国のインフレ率(2022年10月)
先日、米国の2022年10月インフレ率(CPI)が発表され、前年同月比で予想7.9%に対して結果は7.7%でした。食品とエネルギーを除くコアCPIは予想6.5%に対して結果は6.3%でした。今回もカテゴリ別のインフレ率を見ていきます。
ボストンエリアのインフレ率をご覧になりたい方は以下の記事をご覧ください。
■米国のインフレ率推移
まず、米国の2020年以降のインフレ率(CPI)前年同月比は以下の通りです。
米国のインフレ率は、コロナ禍で一度低迷した後、サプライチェーンの混乱と旺盛な需要が重なり2021年5月に5%台となり、その後も段々と上昇しました。中国のゼロコロナ政策やロシアによるウクライナ侵攻がサプラインチェーンの混乱に拍車をかけ、2022年3月には8%台となりました。その後も8%以上を維持してきましたが、2022年2月以来8ヶ月ぶりに7%台に鈍化しました。予想は下回ったものの、引き続き高水準です。2021年10月は6.2%であったため、2年間で13.9%インフレしたことになります。
■米国項目インフレ率と直近半年間の推移
次に、米国のカテゴリ別インフレ率(CPI)と直近半年間の推移は以下の通りです。
前年同月比で、食品は+10.9%、エネルギーは+17.6%。食品・エネルギーを除くコアCPIは+6.3%(予測+6.5%)です。項目別に見ていきます。
食品
前年同月比で+10.9%、前月比で+0.7%。シリアル・ベーカリー(前年同月比+16.2%、前月比+0.6%)、乳製品・関連製品(前年同月比+15.5%、前月比+0.2%)が比較的高いです。
エネルギー
前年同月比で+17.6%。前月比で見た時に、3ヶ月連続で下落していましたが、+1.0%と上昇に転じました。前年同月比で、燃料オイル+68.5%、ガソリン+17.5%、ガス+20.0%等、全般的に上昇しています。エネルギーはロシアによるウクライナ侵攻翌月の2022年3月以降、ボラティリティも大きいです。ウクライナ情勢も不透明で、OPECプラスが11月から原油の日量200万バレル減産(世界需要の2%に相当)を行うことで合意したこともあり、先が読みづらい状況です。
新車・中古車
新車は、前年同月比で新車+8.4%、前月比で+0.5%。関連項目としては、前年同月比で自動車整備・修理(前年同月比+10.3%、前月比+0.7%)、自動車保険(前年同月比+12.9%、前月比+2.0%)も見逃せません。
一方で、中古車は前年同月比で+2.0%まで落ち着きました。前月比で8月▲0.4%、9月▲4.2%、10月▲2.3%と、3ヶ月連続で下落しています。マンハイム指数(アメリカの中古車販売最大手のマンハイム社が発表している指数。正確には、Manheim Used Vehicle Value Index)を見ても、2022年に入ってから下落トレンドであり、直近の高値の236.3(2022年1月)から13.5%程度下落しています。
マンハイム指数を車種別に見ても、全車種で価格が落ちています。先月(2022年9)時点ではコンパクトカーが前年同月比+5.9%でしたが、今月は▲6.1%となっています。ラグジュアリーカーは前年同月比▲15.4%で、インフレによる生活コストの上昇や急速な金利上昇を背景に、高額商品の購入が避けられる傾向にあります。
住居費
前年同月比で+6.9%、前月比で0.7%。先月まではコアCPIを下回る水準でしたが、ここにきてコアCPIを上回りました。全体の支出の32.5%を占めるため、影響が大きいです。
一方で、CPIの住居費は、調査方法の特性上数ヶ月の遅行性があり、足元では異なる動きがあります。BISNOWの記事によると、Apartment.com等の複数の賃貸住宅ポータルサイト運営会社が、2022年第三四半期(7~9月)にて募集賃料が減少に転じたと報告しています。同記事によると、Z世代の労働者の一部が一人暮らしを断念し親と過ごすことや、ルームシェアを選択する賃貸人が増えていること等が背景にあるようです。
私が業務で賃貸住宅マーケットを見ている実感としても、ボストンをはじめ米国の多くの地域において、特にハイエンドな住宅の募集賃料は8月頃から徐々に下がり始めています。部屋のタイプでは大きい部屋より小さい部屋、部屋数も2ベッドより1ベッドが好まれる傾向にあり、賃貸人が少しでも支出を抑えようとしているように感じます。
航空運賃
前年同月比で+42.9%と大きく上昇しています。前月比では、7月▲9.6%、8月▲8.8%と2ヶ月連続で下落した後に、9月+0.1%、10月+3.5%と再度上昇に転じています。
■金利予測
インフレが高止まりすると、インフレ退治のために金利を上げざるを得ません。最後に、現時点でのFOMC(米国連邦公開市場委員会)関係者の金利予測を纏めておきます。以下のグラフは「Fed’s Dot Plot」と呼ばれる、各関係者の予測値をグラフにしたものです。予測値の中央値は青で掲載されています。
各年末の予測値の中央値を纏めると以下の通りです。
- 2022年末:4.375%(2ヶ月前の予測値3.375%から+1.000%)
- 2023年末:4.625%(2ヶ月前の予測値3.750%から+0.875%)
- 2024年末:3.875%(2ヶ月前の予測値3.375%から+0.500%)
- 2025年末:3.125%(2ヶ月前の予測値2.500%から+0.625%)
- 2025年末:2.500%(2ヶ月前の予測値なし)
インフレ鈍化を受けて、12月のFOMCでハト派よりの修正があるか注目されます。
■まとめ
投稿者プロフィール
- 1988年生まれ。神奈川県出身。2011年に慶應義塾大学理工学部を卒業し不動産デベロッパーに入社。2017年より米国ピッツバーグ大学に留学。2019年にBeta Gamma Sigma (優秀な成績を収めた卒業生に送られる称号)で卒業しMBA取得。2019年以降米国不動産業に従事し、2021年以降ボストンを拠点にオフィスや賃貸住宅のアセットマネジメント業務に従事。
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