ボストンの公園・グリーン(2021年)

オフィスや住宅等の不動産ビジネスにおいて、グリーンへの注目が高まっている。例えば、幸福で肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態をさす「ウェルビーイング」の観点でグリーンの果たす役割は大きい。また、人間には自然とつながりたいという本質的欲求があるという考え方から生まれた、日常生活を過ごす場所に緑を取り入れる「バイオフィリックデザイン」の視点においても重視されている。

今回は都市におけるグリーンに関するデータを通じて、ボストンの特徴を見ていく。

■公園・緑地

まず注目するのが米国の非営利団体「The Trust for Public Land」(以下、TPL)が毎年公表しているPark Score®。このTPLは、人々の健康や生活しやすいコミュニティのために公園や緑地を整備する/保護することをミッションに掲げている。また、都市の公園・緑地に関する課題を特定し改善するために、米国の人口上位100都市を下記5点の評価項目で分析し、Park Score®という形でランク付けしている。

  • アクセス:徒歩10分以内に公園がある住民の割合
  • 面積:公園の合計面積と個々の中央値
  • アメニティ:公園にあるドッグパーク、遊具、トイレ等の数(住民1人あたり)
  • 公平性:人種や収入水準と公園分布の関係
  • 投資:公園への投資額(住民1人あたり)

ボストン市は、2021年のPark Score®において、100都市中12位と比較的上位にランクインしている。

(参考)上位20都市

  1. Washington, D.C.
  2. St Paul, MN
  3. Minneapolis, MN
  4. Arlington, VA
  5. Chicago, IL
  6. San Francisco, CA
  7. Irvine, CA
  8. Cincinnati, OH
  9. Seattle, WA
  10. Portland, OR
  11. New York, NY
  12. Boston, MA
  13. Madison, WI
  14. St. Petersburg, FL
  15. Plano, TX
  16. St. Louis, MO
  17. Spokane, WA
  18. Denver, CO
  19. Philadelphia, PA
  20. Kansas City, MO

以下のグラフがボストン市の各評価項目のスコアでだが、アクセス(Access)においては100都市中1位。また、公平性(Equity)、投資(Investment)においても共に23位と上位にランクインしている。各項目毎に詳しく見ていく。

ボストン市のPark Score
出典:2021 ParkScore® Index Custom Rankings)

■評価項目1:アクセス

ボストンはほぼ100%の住民が徒歩10分以内で公園にアクセスすることができる。全米平均の55%を大きく上回っており、San Franciscoと並んで1位にランクインしている。以下のマップを見ると、大規模な公園の他に中小規模の公園がボストン市内にバランスよく配置されているのが分かる。

ボストン市の緑地
出典:ParkScore®)

中心地(ダウンタウン)においても、ボストンコモン、パブリックガーデンを筆頭に、ポストオフィススクエア等よく整備された公園がある。また、ボストンにはエメラルド・ネックレスと呼ばれる公園緑地系統がある。公園や川、池等で繋がれた全長11km以上、総面積約450haに及ぶ緑のネットワークである。1878年に建設が着手され、今もEmerald Necklace Conservancyという非営利組織によく整備されている。中心地のボストンコモンから市南部のフランクリンパークまで続くこのパークシステムは、ボストンの豊かなグリーンに大きく貢献している。

エメラルド・ネックレス全体像
(出典:Emerald Necklace Conservancy)

■評価項目2:面積

ボストン市全体面積の内、19%が公園もしくはレクリエーションとして利用されている。全米中央値の15%は上回っているものの、人口上位100都市の中では54位と中位に位置する。830個の公園が存在するが、面積の中央値が約5600㎡であり、他都市と比較すると小規模なのが特徴である。人口密度が高いため、大規模な公園を多く整備しづらいと考えられる。

参考までに、東京23区の緑被率を高い順に並べると以下の通りである。若干尺度が異なるため比較が難しいが、緑被率の数字だけみると19.0%の北区が最も近い。

東京23区の緑被率ランキング
出典:台東区みどりの実態調査報告書

評価項目3:アメニティ

遊具等のアメニティの観点で見ると、ボストンは36位と比較的上位に位置する。バスルームが少ないのが残念ではあるが、プレイグラウンド(ブランコ、滑り台等の遊具)が100都市中22位、スプラッシュパッド(水遊び場)に関して1位である。我が家からも、徒歩15分圏内にプレイグラウンドかスプラッシュパッドのある公園が5ヶ所あり、子育て世代にとっては有難い。

ボストン市の各アメニティに関するランキング
出典:ParkScore®)
Amesbury Town Park - Water Parks in Boston
スプラッシュパット

評価項目4:公平性

ボストン市では、1人あたりの公園面積が、白人や高所得者層の住むエリアのほうが他エリアに比べ大きいという特徴がある。一方で、他の都市の比べると人種・所得による差が少なく公平性が高い。また評価項目1のアクセスでも触れたように、ほぼ100%の住民が徒歩10分圏内で公園にアクセスできることも公平性に繋がっている。その結果、100都市中23位にランクインしている。

ボストン市の人種毎の1人あたりの公園面積
出典:ParkScore®)
ボストン市の低/高所得者層の1人あたりの公園面積
出典:ParkScore®)

評価項目5:投資

ボストン市は、1人あたりの公園への投資額が$154と全米平均の$96よりも約60%高く、100都市中23位にランクインしている。市の投資額が$63と全米平均の$81より少ないのに対し、市以外の公共機関からの投資額$59(全米平均$6)と民間組織からの投資額$27(全米平均$5)が大きいのが特徴である。

ボストン市の1人あたりの公園への投資額
出典:ParkScore®)

■まとめ

ボストンのグリーンを纏めると、公園やレクリエーションの面積はボストン市全体面積の19%で、他の大都市や東京23区と比べてそこまで充実しているわけではない。一方で、ほぼ100%の住民が徒歩10分以内で公園にアクセスできるという点においては全米トップレベルで公平にバランスよく配置されている。公園への投資額も全米平均より60%高く、エメラルド・ネックレス等よく整備されたパークシステムが存在する。アメニティにおいては、プレイグラウンドやスプラッシュパットが高い割合で整備されている。

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投稿者プロフィール

Take
1988年生まれ。神奈川県出身。2011年に慶應義塾大学理工学部を卒業し不動産デベロッパーに入社。2017年より米国ピッツバーグ大学に留学。2019年にBeta Gamma Sigma (優秀な成績を収めた卒業生に送られる称号)で卒業しMBA取得。2019年以降米国不動産業に従事し、2021年以降ボストンを拠点にオフィスや賃貸住宅のアセットマネジメント業務に従事。