MBTAの危機!ボストンが直面する公共交通の問題と解決策

ボストンはアメリカの主要都市の一つでありながら、その公共交通網には大きな問題があります。MBTA(マサチューセッツ湾交通局)が運営するバス、地下鉄、通勤列車のネットワークは、多くの住民や訪問者にとって日常の移動手段となっています。

しかし、施設の老朽化、安全性への懸念、それらの問題による運休・遅延など、多くの問題点が指摘されています。これらの問題は、ボストンの経済発展と市民の生活品質に直接的な影響を与えており、解決を求める声が高まっています。この記事では、ボストンの公共交通の現状とその背景について掘り下げ、問題を理解するための改善策や今後の見通しを説明したいと思います。

MBTAの歴史と発展

MBTAの歴史は、19世紀にトロリーバスと馬車鉄道が始まったことに遡ります。この時期から、ボストンの公共交通網は絶えず進化し、都市の成長と密接に結びついてきました。

19世紀末にはボストンの中心地の混雑問題が深刻化し、それを解消するために1897年にトレモントストリートサブウェイと呼ばれる米国初の地下鉄が開業しました。(同時期にニューヨークやシカゴでは混雑を解消するために高架鉄道が採用されていたこととは対照的でした。)

ボストンにはここで紹介しているような全米最古の地下鉄の他に、全米最古のスポットが多く存在します。こちらの記事で地下鉄を含む代表的なものを紹介していますので、興味のある方はご覧ください。

ボストンでしか味わえない全米最古のスポット巡り

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1964年にMBTAが正式に設立され以来、都市圏の交通需要に応えるために地下鉄、バス、通勤鉄道、フェリーのネットワークを拡大し続けています。現在のMBTAの各交通手段は以下の通りです。

  • 地下鉄(ヘビーレール): レッドライン、ブルーライン、オレンジラインの3つの主要な地下鉄路線を運営。都心部の核となる交通サービスを提供。
  • 地下鉄(ライトレール): グリーンラインが主要なライトレールシステムで、都心部を通り、郊外へのサービスを提供。また、レッドライン南部の延伸としてMattapan Trolleyも運営。
  • バス: 170以上のバス路線を運営。Silver Lineによるバス高速交通や主要な高利用路線などが含まれる。
  • 通勤鉄道: ボストン周辺の都市や町を結ぶ12の主要な通勤鉄道路線を運営。
  • フェリー: ボストンのダウンタウン、サウスショア、ローガン空港、チャールズタウン間で2つのルートのフェリーサービスを提供。
  • パラトランジット: The RIDEを通じて、東マサチューセッツの58都市及び町で資格のある利用者にパラトランジットサービスを提供。

ネットワークの全体像としては、都心部及び準郊外エリアを地下鉄、バス、フェリーがカバーしつつ、郊外や他都市圏との接続は通勤鉄道が担っています。

MBTAシステムマップ狭域
(出典:What is the MBTA?)

もう少し狭域にすると、都心部がよくカバーされていることが分かります。

MBTAシステムマップ狭域
緑:グリーンライン、赤:レッドライン、橙:オレンジライン、青:ブルーライン、黄色:バス、紫:通勤鉄道、水色:フェリー
(出典:What is the MBTA?)

利用者としては、地下鉄が最も多く、ヘビーレールとライトレールを併せて年間乗降者数は1億人を超えます。地元では、「T」という愛称で呼ばれています。次いで利用が多いのは、バスで年間乗降者数は7600万人です。

MBTAの年間乗降者数
(出典:MBTA Healthy & Sustainable Transportation)

MBTAの課題:安全性の危機

このようにMBTAはボストンの交通網を支える重要な役割を担っていますが、安全性への懸念、遅延・運休など、多くの問題点が指摘されています。

特に地下鉄の安全面は以前から度々指摘されていましたが、直近で最も悲惨な事故は、2022年4月10日にボストン在住の39歳のボストン在住の方がレッドラインのドアに挟まれたまま引きづられて死亡するという悲惨なものでした。

主な、原因は電気配線のショートによって車両を停止させるというフェールセーフが機能しなかったことでしたが、運転士がドアが閉まっていることを確認するという発車ポリシーへの違反や、駅のホームにを撮影するカメラに死角がありそのドアが死角内であったことが判明しました。

(出典:Trans.com

その他にも脱線や火災、列車の衝突を含む事故の発生頻度が高くなっていたこともあり、2022年4月中旬から6月末までの間、連邦運輸局(FTA、Federal Transit Administration)による安全性に関する調査が約2ヶ月半に渡って実施され、2022年8月31日に調査結果が公表されました。その調査結果の中では、コントロールセンターの人員不足、従業員の労働時間違反(長時間労働)や資格の失効、安全運営プロトコルの欠如、線路等のメンテナンスの滞留や管理不足等が指摘されました。

2022年7月に発生したオレンジラインの火災
(出典:CBS NEWS

また、地下鉄全線(レッドライン・ブルーライン・オレンジライン・グリーンライン)において、線路の摩耗等の老朽化したインフラによる安全上の問題が見つかりました。それらの問題が解決されるまで、スローゾーンと呼ばれる速度制限エリアが設定されると共に、インフラの修繕・更新のための運休も相次いでいます。

このスローゾーンは2023年3月以来劇的に増加し、2023年9月には4路線合計で237地点においてスローゾーンが設けられました。路線ごとに見ると以下の通りで、ブルーラインで全体の34%、オレンジラインで全体の17%、レッドラインで全体の31%、グリーンラインで全体の24%がスローゾーンとなりました。

MBTA地下鉄路線毎のスローゾンの場所と割合
(出典:MBTA Spead Restrictions)

更に、以下の路線図を見ると分かるように、多くの地点で10mph (時速16km)のスローゾンがあり、通勤利用者にとっていかにストレスになっていたかお分かりいただけるかと思います。(私もその1人です。)

MBTA地下鉄のスローゾンの場所
(出典:MBTA Spead Restrictions)

ボストン vs ニューヨーク:通勤手段の選択とその影響

通勤での利用率という観点でニューヨークと比較してみようと思います。ボストンでは主に地下鉄とバスが都心部をある程度カバーしているにもかかわらず、通勤で公共交通機関を利用する人は多くありません。以下のグラフはボストン都市圏において、通勤手段毎の割合を示したものですが、トップ3は以下の通りです。

  1. 自動車(自分で運転):62.2%
  2. 在宅勤務:13.0%
  3. 公共交通機関:10.7%
ボストン都市圏の通勤手段
(出典:DATAUSA)

通勤で公共交通機関を利用するのは約10人に1人と非常に少ないことが分かります。自動車(自分で運転)の62.2%に、ライドシェア等の6.6%とタクシーの0.3%を加えると、自動車全体では69.1%となり、ボストン中心市街地の交通渋滞の原因の一つになっています。

一方でニューヨーク都市圏を見てみると、通勤手段毎の割合のトップ3は以下の通りです。

  1. 自動車(自分で運転):47.4%
  2. 公共交通機関:27.8%
  3. 在宅勤務:10.6%
ニューヨーク都市圏の通勤手段
(出典:DATAUSA)

両都市圏における公共交通機関のカバー範囲等に違いがあるため一概に比較はできませんが、同じ米国北東部の大都市として、公共交通機関の利用率に大きな差があります。

私はニューヨークとボストン両都市に居住したことがありますが、ニューヨークの地下鉄は、速度も速く遅延・運休が少ないことに対して、ボストンの地下鉄(特に私のよく利用するグリーンライン)は速度は遅く遅延・運休も多いです。ボストンにおいて、自動車よりも地下鉄を利用したほうが早いというケースはかなり稀であり、特に通勤ラッシュ時は時間が読みづらいことから、通勤で敬遠されるのは良く分かります。

MBTAの地下鉄問題の背後にある経済的・構造的原因

それでは、なぜボストンの地下鉄がここまで利用されないのか、そしてその原因になっている安全性への懸念、施設の老朽化、それらによる運休・遅延がなぜ発生しているのか原因を追究しようと思います。

長年による投資不足

まず、2023年11月にMBTAが公表した「Capital Needs Assessment and Inventory」(資本ニーズ評価)によると、老朽化した設備を良好な状態に修繕するために、$24.5B(約3.6兆円)が必要と膨大な金額が見積もられました。この数値は、約4年前に実施された同調査の$10B(約1.5兆円)という数字から約2.5倍に膨れ上がっています。

原因の一つは長年による投資不足、特に予防保守や点検を怠り、線路延伸等の資本プロジェクトを優先させたことにあると指摘されています。具体的には、線路、列車、信号機、建物等の設備の64%が耐用年数を過ぎており、修繕や更改が必要であることが明らかになりました。

耐用年数が過ぎている設備の割合
(出典:Capital Needs Assessment and Inventory

経営トップの頻繁な交代

近年の度重なる経営トップの交代も、正しい意思決定がなされてこなかった一つの原因とされています。特に2010年以降は、経営トップであるゼネラルマネージャーが10回交代しています。

問題が山積しておりプライオリティ付けが難しい中で、過去の経営層が予防保守や点検等の安全管理のためのプロセスを完全に理解することなく、資本プロジェクトを優先してきました。

また、慢性的な人手不足とコスト削減圧力により、経営層・現場共に士気が低かったことが指摘されています。上述したように、Covid19では利用者数も減っているため、収入源による財政管理の難しさもあったと思います。

難しい収支管理

そもそも、MBTAの収支は運賃等の事業収入ではほとんど賄えておらず、半分以上は行政からの資金に依存しています。以下の通り、総支出に対する運賃等の事業収入の割合はCovid19によるパンデミック前でも40%強しかなく、パンデミック期間に一時10%まで沈み、現在も20%程度までにしか回復していません。(ニューヨーク等他の大都市の公共交通機関も同様の収支構造ですが、MBTAの事業収入の割合はその中でも低いです。)その中で、連邦政府やマサチューセッツ州等行政からの資金に依存する必要があり、収支管理を困難にさせています。

総支出に対する運賃等の事業収入の割合
(出典:FY24 Operating Budget

MBTAの転換点:抜本的改革への道

このように、長年による投資不足(及び不適切な投資判断)、経営トップの頻繁な交代、厳しい収支管理によって、全米最古の地下鉄の老朽化を更に悪化させ、死亡事故や火災を含む安全性の問題、遅延・運休に繋がりました。

しかし、ここにきて以下にあげるような抜本的な改善の兆しと具体的なアクションが実行に移されているため、紹介したいと思います。

MBTA経営陣の刷新

まず、MBTA経営陣の刷新です。契機となったのは上述のオレンジラインの火災やレッドラインでの死亡事故を含む重大インシデントの発生。それに伴い、FTAによる安全性に関する調査によって問題点が明らかになったことも相まって、前マサチューセッツ州知事チャーリー・ベーカー(2023年1月に退任)やMBTAの元GMスティーブ・ポフタク(2023年1月に退任)等が、人々から強く批判されるようになりました。

その中で、2023年1月に就任した現マサチューセッツ州知事のモーラ・ヒーリーはMBTAを念頭に置いた公共交通システムの運営支援・改善を重要公約に掲げました。そして、同年3月にはMBTAの新ゼネラルマネージャーとしてフィリップ・エンという実績十分な人材を任命しました。

マサチューセッツ州知事モーラ・ヒーリー
(出典:Facebook)

フィリップ・エンの任命の主なポイントは以下の通りです。

  • ニューヨークのロングアイランド鉄道(LIRR、Long Island Rail Road)に2018~2022年の4年間プレジデントとして在籍し、2018年時点で2000年以降ワーストであった遅延率を2021年には3.7%という過去最高の水準まで改善させた実績あり
  • 上記LIRR退任後は、LiRo Groupというエンジニアリングコンサルファームの副社長としてMBTAグリーンライン延伸プロジェクトの品質管理業務を担当
  • MBTAでは基本給$470,000/年(前任は$417,000/年)や業績連動のボーナス等による高待遇
MBTAゼネラルマネージャー兼CEOフィリップ・エン
(出典:Linkedin)

さらに、モーラ・ヒーリー州知事はフィリップ・エンの任命後すぐに、ボードメンバーの3名を入れ替えたり、現場で問題が多発しているにも関わらずリモートワークを続けるシニアマネージャ複数人の解雇・出社要請したりする等、積極的に経営層を刷新しました。2010年以降経営トップが安定せずに、MBTAが経営難に陥ったことを鑑みると、これが吉と出るか凶と出るかは分かりませんが、実績十分なだけに期待できるかと思います。

スローゾーン撤廃のために大規模修繕計画

過去数年において速度制限・遅延・運休の多かった地下鉄ですが、新ゼネラルマネージャのフィリップ・エンのリーダーシップの下、MBTAも抜本的な改善に乗り出しています。

例えば、2023年10月、MBTAはスローゾーンの多かったJFK/UMass駅からAshmont駅までの5駅間の路線を16日間運休とすることで、単にスローゾーンを撤廃するための工事だけではなく、劣化した線路、結束バンド、バラスト(線路内の砂利)の追加修繕や更新等、非常に効率的・効果的な改善を実施しました。この修繕により、同区間(JFK/UMass駅からAshmont駅)の所要時間は約16分から約8分半と7分半の短縮に繋がりました。

また、以下の通り、同区画を中心にレッドラインのスローゾーンの箇所は106ヶ所から66ヶ所まで40ヶ所減少しました。

地下鉄全線のスローゾーンの改善
(MBTA Spead Restrictionsを基に作成)

この工事は利用客からも称賛され、MBTAは本工事をモデルに、2024年一年を通じて、地下鉄全線においてスローゾーンを撤廃すべく同様の工事を実施する計画を立てました。以下が、2023年11月に公表された暫定スケジュールです。

  • 1月 グリーンライン、中央トンネル(North Station~Kenmore):21日間の運休で、15ヶ所のスローゾーンに対応し、8.7分の移動時間短縮
  • 2月 レッドライン、Alewife~Harvard:9日間の運休で、9ヶ所のスローゾーンに対応し、6.5分の移動時間短縮
  • 2~3月 グリーンライン(BCD線)、Copley~St. Mary’s,、Babcock、Brookline Hills:18日間の運休で、9つの速度制限に対応し、4.2分の移動時間短縮
  • 3月 オレンジライン、Haymarket~Jackson Square:4日間の運休で、2ヶ所のスローゾーンに対応し、1.3分の移動時間短縮
  • 4月 ブルーライン、Airport~Wonderland:12日間の運休で、12ヶ所のスローゾーンに対応し、5.3分の移動時間短縮
  • 5月 レッドライン、 Park St. ~JFK/UMass:8日間の運休で、8ヶ所のスローゾーンに対応し、2.6分の移動時間短縮
  • 6月 オレンジライン、Sullivan~Back Bay:10日間の運休で、6ヶ所のスローゾーンに対応し、2.3分の移動時間短縮
  • 6月~7月 オレンジライン、Wellington~North Station:9日間の運休で、5ヶ所のスローゾーンに対応し、4.3分の移動時間短縮
  • 7月 レッドライン、Alewife~Kendall:16日間の運休で、9ヶ所のスローゾーンに対応し、9分の移動時間短縮
  • 8月 グリーンライン(B線)、Boston College~Kenmore:10日間の運休で、7ヶ所のスローゾーンに対応し、1.7分の移動時間短縮
  • 8月 オレンジライン、Oak Grove~North Station:6日間の運休で、13ヶ所のスローゾーンに対応し、1.7分の移動時間短縮
  • 9月 レッドライン、JFK/UMass~Braintree:16日間の運休で、22ヶ所のスローゾーンに対応し、9.1分の移動時間短縮
  • 9月~10月 オレンジライン、Back Bay~Forest Hills:11日間の運休で、15ヶ所のスローゾーンに対応し。4.8分の移動時間短縮
  • 10月 レッドライン、Kendall/MIT~Broadway:6日間の運休で、8ヶ所のスローゾーンに対応し。3.7分の移動時間短縮
  • 10月~11月 グリーンライン(C線)、Cleveland Circle~St. Mary’s:6日間の運休で、1ヶ所のスローゾーンに対応し。0.1分の移動時間短縮
  • 11月 グリーンライン、North Station~Lechmere:14日間の運休で、2ヶ所のスローゾーンに対応し。1.2分の移動時間短縮
  • 12月 レッドライン、Broadway~North Quincy:6日間の運休で、4ヶ所のスローゾーンに対応し。2.7分の移動時間短縮
  • 12月 レッドライン、Harvard~Park:6日間の運休で、3ヶ所のスローゾーンに対応し、0.8分の移動時間短縮

合計188日の運休という痛みの伴うものですが、これだけ大規模な工事計画は抜本的な改善の裏返しであり、期待が持てると思います。また、これまでは事故発生後の対症療法的な運休や、不透明な突然の運休が多かったの対し、透明性をもって計画的に公表していているため、これまでのような利用者の大きな不満は出ていないように思います。

本記事を執筆時点において、1月のグリーンライン中央トンネルの工事は完了しており、以下のように大幅なスローゾーンの減少を確認することができます。

予算と人員の増加

上記のような大規模修繕工事や、社員の待遇の向上を実施するために、予算と人員も厚くしています。2024年度の予算計画では、前年度比+7%にあたる$約2.7B(約3900億円)の予算を作成し、その計画の中には2023年3月末時点で6,500人だった従業員を7,600人(+1,100人)迄増やす計画も含まれています。

2024年度MBTA支出計画
(出典:FY24 Operating Budget

一方で、これまで同様に収入の約8割を行政からの資金に頼る収支構造は変わらず、2024年度の行政からの資金の中には一時的なサポートも含まれるため、2025年度以降の健全な経営ができるか懸念する声も既に少なからずあります。

2024年度MBTA収入計画
(出典:FY24 Operating Budget

その他:チャーリーカードの改善

MBTAを利用するには、現金の他にチャーリーカードと呼ばれるタップ式のカードに事前にチャージしておくことで手軽に乗車することができます。2021年に挿入式のチケットからタップ式のチャーリーカードに取って代わられ多少便利になったとは言え、このご時世に物理カードを持ち歩かないといけない点が改革が遅れているように感じます。

チャーリーカード
(出典:MBTAウェブサイト

しかし、MBTAでも2025年までにはチャーリーカードだけでなく、スマートフォンや非接触型クレジットカードで乗車できるようになる予定で、既に一部のバスや地下鉄内では新しいシステムが試験導入され、フォーカス・グループ等を通じてテスト運用中です。

【2024/8更新】2024年8月1日より全てのバスと地下鉄にて、スマートフォンや非接触型クレジット/デビットカードで乗車できるようになり利便性が向上しました。

テスト運用中の新システム
(出典:MBTAウェブサイト

感想:市民と不動産業者の視点から

最後にボストン市民、不動産業者としての感想を記載したいと思います。

まず、一利用者としては、2021年末にボストンに引っ越して以来、約2年に渡り地下鉄、主にグリーンラインを使い続けてきました。グリーンラインは地上区間も多いため、余裕のある時は時にコトコトゆっくり走る全米最古の地下鉄に乗って、アメリカの歴史を感じながらボストンの綺麗な街並みを楽しんでいました。観光列車か!?と思ったりもします。(私の子どもも、そんなどこか愛嬌のあるグリーンラインの大ファンです。)

しかし、通勤時や急いでいる時は、急な運休や頻繁に発生する一時停止、不規則なダイヤグラムに対し多々ストレスを感じてきました。それらが原因で仕事の打ち合わせに遅刻してしまったこともあり、急ぎの際は車を使うようになりました。さらにスローゾーンが増えてからは、同ゾーン内で自転車に抜かされる絶望感を味わい、ついに通勤用に自転車を購入しました。私の住んでいるBrooklineというエリアからボストンダウンタウンまで地下鉄利用だと40分~1時間(日によって大幅に異なる)なのに対し、自転車だと25分程で着きます。自転車は快適ですが、悪天候時や真冬はさすがに厳しいため、地下鉄の抜本的な改善には一利用者として多いに期待しています。

次に不動産目線では、ボストンの地下鉄の改善は、不動産投資対象エリアとしてダウンタウンの価値そして、ボストン全体を更に高めるのではないかと思っています。現在全米で在宅勤務定着によってオフィス不動産の価値が大幅にディスカウントされています。しかし、通勤が“ストレス”ではなくより”健康的なアクション”と捉えられるようになれば、より自発的に出社する人が増えるのではないかと思っています。そしてMBTAの地下鉄の改善は、駅周辺のエリア価値向上にも繋がると思います。

また、ボストンのダウンタウンは他の大都市、例えばニューヨークやサンフランシスコ等のダウンタウンと比べると非常に綺麗かつ歴史的で、私はその雰囲気が大好きです。都心部の車による交通渋滞や駐車場不足が問題視されていますが、通勤で公共交通機関を使用する割合が増えれば、これらの問題も緩和されると思います。そして、何より全ての通勤者にとって、地下鉄、バス、車、自転車等オプションのある状態が望ましいことだと思います。今後の地下鉄の改善が多くの通勤者の選択肢を増やすことを願い、モーラ・ヒーリー州知事とMBTAフィリップ・エンGMを中心とするリーダーシップに期待したいと思います。

まとめ

MBTAの危機!ボストンが直面する公共交通の問題と解決策

  • MBTAの歴史と発展
    • 19世紀にトロリーバスと馬車鉄道から始まり、1897年には米国初の地下鉄が開業。
    • 現在は地下鉄、バス、通勤鉄道、フェリー、パラトランジットを運営。
  • MBTAの課題:安全性の危機
    • ここ数年、死亡事故、火災、脱線。列車の衝突等の重大インシデントが相次ぐ。
    • コントロールセンターの人員不足、従業員の労働時間違反(長時間労働)や資格の失効、安全運営プロトコルの欠如、線路等のメンテナンスの滞留や管理不足等が指摘される。安全確保のために多くのスローゾーン(速度制限エリア)が設定。
  • MBTAの地下鉄問題の背後にある経済的・構造的原因
    • 上記問題を招いたのは、長年による投資不足、経営トップの頻繁な交代、難しい収支管理
  • MBTAの転換点:抜本的改革への道
    • MBTA経営層の刷新、スローゾーン撤廃のために大規模修繕計画、予算と人員の増加により改善の兆しあり。

投稿者プロフィール

Take
1988年生まれ。神奈川県出身。2011年に慶應義塾大学理工学部を卒業し不動産デベロッパーに入社。2017年より米国ピッツバーグ大学に留学。2019年にBeta Gamma Sigma (優秀な成績を収めた卒業生に送られる称号)で卒業しMBA取得。2019年以降米国不動産業に従事し、2021年以降ボストンを拠点にオフィスや賃貸住宅のアセットマネジメント業務に従事。

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