ボストンの移民データを徹底解剖!各国出身者の歴史と現状
ボストンは、マサチューセッツ州の東海岸に位置し、大西洋に面した海沿いの都市です。この地理的な特性から、ボストン港は18世紀から貿易と移民の玄関口として発展し、アメリカの歴史において象徴的な役割を果たしました。また、教育・医療機関が多く集まるため、世界中から留学生や専門職が集まる国際都市としても発展しました。
このような背景もあり、ボストンはアメリカの中でも最も古い移民都市の一つです。特に19世紀から20世紀初頭にかけて、多くのヨーロッパ系移民がボストンを新たな生活の場として選びました。20世紀後半から21世紀にかけては、アジア、中南米、アフリカなど世界各国からの移民がボストンに定住するようになり、新たな移民層が形成されています。
今回は、ボストン都市圏における外国人の割合と彼らがコミュニティを形成しているエリアやその歴史的背景を纏めていきます。
米国の外国人出身エリア割合
まず米国全体で見ると、2023年で米国在住の外国人割合は14.3%(47,831,053人)です。
その中で、ボストンの位置する北東部の外国人割合は17.5%(9,992,446人)と、西部(19.5%)よりは少ないものの、南部(13.1%)や中西部(7.8%)よりは多いです。
また、ボストン都市圏の相対的な特徴を把握すべく、各エリアでの代表的な都市圏も纏めました。上記表の通り、ボストン都市圏においては、19.9%(5,938,005人)が外国人であり、同じ北東部のNY都市圏(30.5%)や西部のLA都市圏(32.9%)よりは少ないものの、中西部のシカゴ都市圏(18.9%)やダラス都市圏(20.0%)と同程度であることが分かります。
また出身大陸別に見ると、ボストン都市圏はアメリカ大陸出身の割合が全外国人の44.5%を占めており最も多いものの、他の都市圏と比較するとその割合は最も低いという特徴があります。その代わり、ヨーロッパ(14.8%)やアフリカ(8.6%)出身の外国人の割合が比較的多いです。
なお、ボストン都市圏(Boston-Cambridge-Newton, MA-NH Metro Area)の定義はこちらをご覧ください。こちらの記事で言う「狭義のグレーターボストン」を指します。
ボストン在住外国人の出身国割合(ヨーロッパ編)
ボストン都市圏在住外国人の出身国の割合について、大陸別に見て行こうと思います。まずはヨーロッパです。ボストン都市圏においては、他都市圏と比較して、アイルランド、イギリス、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、ロシア出身者が多いです。特に特徴的な国のそれぞれの歴史的背景と、コミュニティを形成しているエリア、影響を纏めます。
アイルランド
- 全外国人に占める割合:0.9%(8,875人)
- 歴史的背景:19世紀中頃、同国のジャガイモ飢饉(1845-1849年)を背景に、多くのアイルランド系移民がボストンに流入。彼らは主に港湾労働や建設業に従事し、サウスボストンを中心に定住。
- コミュニティ形成エリア:サウスボストン
- 影響:ボストン市政や文化に大きな影響を与え、セントパトリックデーの祝祭は市全体で実施。アイリッシュパブも多い。
イタリア
- 全外国人に占める割合:1.4%(13,431人)
- 歴史的背景:19世紀後半から20世紀初頭にかけ、貧困と政治的困難から逃れた多くのイタリア人(特に南イタリア)がボストンに移住。
- コミュニティ形成エリア:ノースエンド
- 影響:ノースエンドにリトルイタリーと呼ばれるイタリア街を形成し、多くのイタリアンレストランや文化的イベントで賑わい観光地としても知られる。毎夏セントアンソニー祭を実施。
ポルトガル
- 全外国人に占める割合:1.3%(12,604人)
- 歴史的背景:19世紀末から20世紀初頭にかけて、ニューイングランド地域で製造業や漁業が盛んであった中で、ポルトガル本国での経済的困難や農村部での貧困で移住が増加。特に、ポルトガル領アゾレス諸島やマデイラ諸島からの移民が多く、その地理的特徴から海洋関連の仕事に従事しやすかった。
- コミュニティ形成エリア:フォールリバー、ニューベッドフォード
- 影響:フォールリバー、ニューベッドフォード中心にポルトガル料理が根付いており、地元住民にも愛されている。毎年6月頃には、ボストンポルトガル際が開催され、パレードや伝統音楽、ダンス等で祝われる。
ロシア
- 全外国人に占める割合:1.4%(13,809人)
- 歴史的背景:20世紀初頭のロシア革命やソビエト連邦の崩壊後、政治的・経済的な理由から多くのロシア系移民がボストン都市圏に移住。
- コミュニティ形成エリア:ニュートン、ブルックライン、ケンブリッジ
- 影響:教育や医療分野、アートや音楽分野での活動により文化を形成。
ボストン在住外国人の出身国割合(アジア編)
アジアにおいては、ボストン都市圏では他都市圏と比較して、中国、カンボジア出身者が多いです。それぞれの歴史的背景と、コミュニティを形成しているエリア、影響を纏めます。日本人の割合は多くないですが、一定数いますので最後に記載しました。
中国
- 全外国人に占める割合:10.5%(105,837人)※国別では最も多い
- 歴史的背景:19世紀後半に中国系移民が流入。当初はゴールドラッシュや鉄道建設で西海岸に移住した中国人が、産業の多様化や新しい雇用の機会を求めて東海岸に移り、20世紀に入ると定住者が増加。彼らが集まる場所としてチャイナタウンが形成されたものの、ジェントリフィケーション(家賃相場の上昇により既存住民が住み続けられなくなる現象)により、南部のクインシーや北部のマルデンに中国コミュニティが分散。
- コミュニティ形成エリア:チャイナタウン(ダウンタウンの南部)、クインシー、マルデン
- 影響:チャイナタウンには多くのレストラン、商店、中華系のビジネスが並び、地域経済の一翼を担っている。
カンボジア
- 全外国人に占める割合:1.5%(14,798人)
- 歴史的背景:1970年代後半に、クメール・ルージュ政権下で発生したジェノサイドや政治的混乱から逃れた多くのカンボジア難民がアメリカに渡り、その一部がボストン都市圏に定住。郊外のロウエル市は特に多くのカンボジア系移民が集まる地域となり、現在に渡るまでアメリカで最大級のカンボジア系コミュニティを形成。
- コミュニティ形成エリア:ロウエル
- 影響:ロウエルでは毎年カンボジア正月(チョール・チナム・クメール)を祝う祭りが開催される。
日本
- 全外国人に占める割合:0.7%(6,725人)
- 歴史的背景:20世紀初頭から日本人が流入。当初はボストンの有名大学や研究機関が日本からの留学生や専門家を引きつけ、アメリカに留学する学生や研究者が増加。第二次世界大戦後には、日本の経済成長とともに、ボストンに進出する日系企業も増え、特に技術系や医療系の職業に従事する日本人が増加。
- コミュニティ形成エリア:ブルックライン、ケンブリッジ
- 影響:日本食レストランやラーメン店、和食材の店が人気。日本文化を紹介するイベントも行われ、地域住民にも日本文化が広がっている。
ボストン在住外国人の出身国割合(アフリカ編)
アフリカにおいては、ボストン都市圏では他都市圏と比較して、ウガンダ、モロッコ、カーボベルデ出身者が多いです。特に多いカーボデルベについて纏めます。
カーボデルベ
- 全外国人に占める割合:1.7%(16,830人)
- 歴史的背景:19世紀中頃、多くのカーボベルデ系住民が、ニューイングランド地域での港湾や漁業における労働機会を求めて移住。同国は1975年に独立するまでポルトガル領だった中で、当時多くのポルトガル系移民がボストン都市圏で働いていたことも移住の一因だった。1970年代以降、経済的困難や政治的な要因により、さらに多くの人がアメリカに渡りボストン都市圏に定住。
- コミュニティ形成エリア:ドチェスター、ブロックトン
- 影響:カーボベルデ系移民は、ボストンの音楽や料理文化に強い影響を与え、地域のフェスティバルやイベントでよく演奏され、地元住民にも親しまれている。毎年のカーボベルデ独立記念日には、パレードや音楽イベントが開催され、地域全体でカーボベルデの文化が祝われる。
そもそもカーボデルベってどこ??という人が多いのではないかと思いますが、同国は北西アフリカの西沖合に位置する諸島からなる共和制の国家です。1990年代初頭以来、安定した代議制民主主義国家であり、アフリカで最も先進的かつ民主的な国の1つとして知られています。
ボストン在住外国人の出身国割合(アメリカ大陸編)
アメリカ大陸においては、ボストン都市圏では他都市圏と比較して、ドミニカ共和国、ハイチ、ブラジル、カナダ出身者が多いです。一方で、主に地理的に遠いことから、他エリア・都市圏では突出して多いメキシコ人が少ないことも特徴です。特に特徴的な国について纏めます。
ドミニカ共和国
- 全外国人に占める割合:8.7%(85,720人)※国別では、中国、ブラジルに次いで3番目に多い
- 歴史的背景:ドミニカ共和国からの移民は経済不況や政治的な不安定さが原因で1980年代から増加。その後、家族や親族を呼び寄せる流れも続き、ボストン都市圏に大規模なドミニカ系コミュニティが形成。
- コミュニティ形成エリア:イーストボストン、エバレット、ロクスベリー
- 影響:ドミニカ系移民は、地域社会に音楽や食文化を通じて影響を与えており、イーストボストンやロクスベリーにはドミニカ料理のレストランが多く、モフォンゴ(調理用バナナを使用した料理)やサルサが人気。
ハイチ
- 全外国人に占める割合:5.3%(52,108人)
- 歴史的背景:1980年代以降、ハイチの政治的不安や経済的困難から逃れた人々がアメリカに移住しボストン都市圏に定住。
- コミュニティ形成エリア:マタパン、ドチェスター、エバレット
- 影響:ハイチ料理が地域で広く親しまれており、特にグリオ(揚げ豚肉)やプランテンなどのハイチ料理が人気。ハイチ独立記念日にはパレードやイベントが開催される。
ブラジル
- 全外国人に占める割合:9.4%(91,919人)※国別では、中国に次いで2番目に多い
- 歴史的背景:1990年代以降、ブラジルからの移民はアメリカの経済的機会を求めて増加。特に、教育や医療分野での仕事の増加に伴い、ブラジル系移民がボストン都市圏で専門職やサービス業に従事。ボストン都市圏には歴史的にポルトガル系やカーボベルデ系の移民も多く、ポルトガル語を話す住民が多く存在したことで、同じ言語を話すブラジル人がコミュニティを形成しやすかったとも言われている。
- コミュニティ形成エリア:サマービル、エバレット、フレーミングハム
- 影響:ブラジル系移民は地域の食文化や祭りに貢献。ブラジルの「フェスタ・ジュニーナ」(6月の収穫祭)等のイベントが開催される。料理面ではシュラスコ(ブラジル風バーベキュー)やアサイーボウル、パステル(揚げパイ)など地域住民からも人気。
まとめ
投稿者プロフィール
- 1988年生まれ。神奈川県出身。2011年に慶應義塾大学理工学部を卒業し不動産デベロッパーに入社。2017年より米国ピッツバーグ大学に留学。2019年にBeta Gamma Sigma (優秀な成績を収めた卒業生に送られる称号)で卒業しMBA取得。2019年以降米国不動産業に従事し、2021年以降ボストンを拠点にオフィスや賃貸住宅のアセットマネジメント業務に従事。
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